出発間際、ソファーに座った彼のひざにのっかりながら、
「楽しかったね。」
「楽しかったね」
「もう帰らなくちゃならないね。」
「ね」
「ねぇ、同じ所に帰ること、考えてほしい。」
笑いながら聞いていた彼は、笑ったままそのまま返事もしなかった。
「ねぇ、ねぇってば」
「もう出なくちゃ。降りて。」
ひざから一向に降りる気配のない私に痺れをきらして
「わかった。」
そう言ってくれた。
無理やり言わせてどうするのかと思うかもしけないけれど、きっとそう言っているうちにその気になるに違いない。

私は『旅行では見たいところ、行きたいところがたくさんになって、精力的に動く』タイプではないので、彼がそうじゃなくてよかった。
今日の観光は3ケ所の予定。
この土地ならではの、楽しかったからこそ行っておかなきゃいけない場所を選んだ。

「泣きそうになった」
彼がつぶやく。
「泣いちゃえば良かったのに。」
私がそれに続く。私はすでに泣いてるし。
今、あの場所がどうして今でも、あんなことになっているのかが、とても良くわかった。

空港に向かう車の中で、また私は彼に言う。
「楽しかったね。一緒のお家に帰れればいいのに。」
それまで、何を考えたのか
「大変だよ〜。洗濯物も倍だよ。」おっっ逆襲?
「大丈夫。洗濯物なんて、洗濯機がやるんだもん。」
「はっはっは。一緒のおうちにいたら、あんなに美味しいものいっぱい食べられなかったよ。」
「え〜どうして?」
「ずっとコンビニ。」
「あら〜」

空港で、お土産を買う。
仕事も休んでいるので、職場に。あとは友達にも。
家には、昨日蔵元で買い求めたお酒があるからいいやと思っていたのに、彼は何度も「ママにあの珍味は?」と聞いてくる。私は苦手だし、お酒があるからいらないとどんなに言っても、手ごろなものを探していた。
「これは俺からのお土産だから。わかってる?」
「わかってる」けど、ママにはどんな顔して渡せばいいの?
彼からママにお土産なんて、どんなに意味があるかわかってるの?

羽田からはリムジンバスに乗って帰る予定にしていた。
彼はどうしようかなと、迷っていた。
とりあえず、私を乗せちゃおうと時刻表を見ると、彼のうちの近くまで行くリムジンバスが五分後に出ることがわかる。その場所は、近いんだけど、彼の家まで行くのにはさらにバスしかなくて、たぶんそのバスももう終わってしまうという。けれど、彼はリムジンバスに乗ることにした。実はそこは私の家の沿線。予定より手前で降ろされちゃうけど、同じリムジンバスに乗ることにした。
だってもうすこし彼と一緒にいられるもの。

お家に帰って、「着いた」とメールしたらそれにも「お土産は俺から」って書いてあったので、もちろん母にもそう言いました。すると
「そう、ありがとう。でもなんで?」
「さあ・・・」

彼に母に言われたことをメールしたら帰ってきたのが
「『なんで?』って、誰かさんがもうお金使わないって言うから・・・あれ!?」

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